Wednesday, September 17, 2025
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東洋紡(TOYOBO)のCDOが語る「CDOの役割や魅力」とは



工学の現場からITの最前線へ:変化を恐れず歩んだキャリアの35年

私は1988年に工学系の大学院を修了し、化学メーカーである株式会社カネカに研究者として入社しました。入社後最初の6年間は、メディカルデバイスの研究開発に携わり、血液を扱う製品の特性上、感染予防の観点から「ペーパーレス化」に取り組み始めました。

ちょうどその頃、1990年代中盤にインターネットの黎明期を迎え、自分の研究開発の生産性を高めたいという思いから、研究所の仲間とともにコンソーシアム的な形でインターネット環境を構築しました。これが、私にとってITとの本格的な出会いとなりました。

2000年以降、企業内で業務改革の機運が高まる中、研究所時代に培ったITスキルを活かして、より広い視点から組織に貢献したいと考えるようになり、IT・行革部門へと転籍しました。それ以降、技術と現場の知見を融合させた業務改革に取り組んできました。

そして2022年、東洋紡とのご縁をいただき、現在の職務に就いております。これまでの経験を活かしながら、さらなる価値創出に向けて挑戦を続けています。

「決める覚悟が、未来を動かす」:30社を束ねたビル移転プロジェクトの舞台裏

私にとって最も印象深いプロジェクトは、前職で本社ビルを移転した際の取り組みです。

2012年から2013年頃のことでしたが、単なる引越しではなく、ITをインフラとして再構築する絶好の機会と捉えました。新しい建物に移るということは、レガシーな仕組みを一新し、最新技術を導入できるまたとないチャンスだったのです。

当時、まだマイクロソフト本社でしか使われていなかったコミュニケーションツール(現在のTeamsの前身)を導入し、PBX(内線電話交換機)を全廃しました。音声とテキストを融合させたシームレスなコミュニケーション環境を構築し、FMC(固定・携帯融合)や光電話といった先進技術の導入にも挑戦しました。

このプロジェクトは、日本国内に前例がないもので、しかも移転日が決まっているため、失敗が許されない状況でした。約30社のパートナー企業と連携しながら、私はプロジェクトオーナーとして「意思決定」に徹しました。

週次の会議では、たとえ情報が30〜45%しか揃っていなくても、右に行くか左に行くかを必ず決めました。

「もう少し検討しよう」という言葉は一度も使わなかったと思います。

なぜなら、私が迷えば、プロジェクト全体が止まってしまうからです。

現場の声にも耳を傾け、感覚的な情報も大切にしながら、常に「戻る時間を確保する」ことを意識して進めました。結果として、パートナー企業の方々から「これほど意思決定が明確なプロジェクトはなかった」と言っていただけたことが、何よりの成果だと感じています。

この経験を通じて、私の中に根付いたのは「チャレンジすること」「仲間とともに創り上げること」の大切さです。そして、プロジェクトを動かす原動力は、トップのリーダーが責任を持って意思決定をすることだと、今でも強く信じています。

仮説を持って動く:研究者として培った挑戦力を武器に、3年で変えるという覚悟

私はもともと研究者としてキャリアをスタートしました。周囲からどう見えていたかは別として、研究という部署に所属し、日々取り組んでいたことは、まさに「すべてがチャレンジ」だったと思っています。

研究とは、自分で仮説を立て、それを検証し、成果へとつなげていくプロセスです。

誰かの後をなぞるのではなく、自ら課題を見つけ、その課題に対してどうアプローチするかを考える。そして、複雑で難易度の高いテーマに対して、一人ではなく仲間とともに挑んでいく──その姿勢こそが、私の原点です。

「研究は趣味のようなもの」と半ば冗談で言っていたこともありますが、それくらい主体的に、楽しみながら取り組んでいました。

その後、私は比較的キャリアの後半で転職を経験しました。若いうちの転職とは異なり、自分のライフサイクルの中である程度先が見えている中での決断でした。そのため、「何年か様子を見てから変えていこう」というスタンスではなく、「仮に3年間でどこまで到達できるか」という仮説を持って、最初から全力で取り組みました。

特に組織改革やインフラの刷新といった領域では、段階的な改善ではなく、いわばビッグバンに近い変革を行いました。限られた時間の中で最大限の成果を出すことにこだわった結果です。

このような姿勢は、若い頃に培ったチャレンジマインドと、時間の価値を強く意識する考え方が結びついたものだと思っています。仮説を立て、仲間とともに挑み、限られた時間の中で成果を出す──このサイクルこそが、私のキャリアを通じて一貫して大切にしてきたことです。

「本音で語ると、仲間ができる」:信頼と挑戦が生まれる対話の力

私がこれまでのキャリアで大切にしてきたのは、「いかに引き出しを作っておくか」、つまり仲間づくりです。先ほどお話ししたコミュニケーションツール導入のような大きなプロジェクトでも、成功の鍵は技術そのものよりも、いかに多くの人と信頼関係を築けるかにありました。

相談できる相手、協力してくれる人、自分に新しい視点やエッセンスを与えてくれる仲間をどれだけ持てるか。それはベンダーに限らず、同業他社や異業種の方々も含まれます。日頃からいろいろな人と会話を重ねてきたことで、いざという時に「本音でどうしたの?」と聞ける関係性が自然とできていきました。

そのためには、自分自身が本音で話すことが大切です。

作られた言葉ではなく、正直な気持ちで語ることで、相手も心を開いてくれます。インタビューやセミナーでも、私は失敗談を含めて率直に話すようにしています。実際、うまくいった話よりも、失敗から得た学びの方が、相手にとっても参考になることが多いと感じています。

研究開発と同じで、100点を取ることはほとんどありません。ネットワークの切り戻しのように、やってみて初めて分かることも多く、悩んで立ち止まるよりも、まずやってみることに価値があると思っています。若い人たちにも、「100点を目指すより、50点でもいいからまず動いてみよう」と伝えています。

また、自分の考えを人に話すことで、自分自身の理解度や考えの整理にもつながります。レビューの場は、自分を磨く貴重な機会です。私自身も、こうして話すことで、自分の中の考えを常にブラッシュアップしている感覚があります。

仲間をつくること、本音で語ること、そしてまず動いてみること──これらが、私の挑戦を支えてきた大切な要素です。

より具体的なCDOの仕事観、やりがいや魅力に焦点を当て、リーダーシップやITリーダーへの効果的なアドバイスなど、矢吹氏に話を聞きました。詳細については、こちらのビデオをご覧ください。

CDOのやりがい、魅力について:

前職ではIT部門の部門長という立場でしたが、現在は経営陣の一員として、より広い視点からトランスフォーメーションに取り組んでいます。ITや業務改革は、もはや一部門だけで完結するものではありません。会社全体の意識改革、「特に経営層との対話と共感がなければ、本質的な変革は実現できない」と強く感じています。

その意味で、今の立場には大きなやりがいがあります。経営トップと直接対話し、自分の考えを伝え、実現に向けて動かせる可能性が高まっているからです。

私が着任した当初、組織は「デジタル戦略部」という名称で、10名程度の小さなチームからスタートしました。その後、30年以上続いた情報システム子会社「東洋紡システムクリエート」を本社に統合し、単なる組織の合併ではなく、機能そのものを変革する取り組みを進めてきました。

従来の「受託開発」から「提案型」への転換を目指し、メンバーの意識改革にも力を入れています。保守業務に固定されがちだった人材を社内ローテーションで育成し、外部への派遣も積極的に行うなど、組織全体の柔軟性と成長力を高める仕組みづくりを進めています。

そして、組織名も「TX(=東洋紡トランスフォーメーション)・業務革新総括部」へと変更しました。

これは単なる名称変更ではなく、「会社そのものを変える」という強い意志と夢を込めたものです。DX(デジタルトランスフォーメーション)にとどまらず、東洋紡全体の変革に貢献するという思いを込めています。

入社当初に描いたロードマップに沿って、今のところ順調に進んでいますが、本当の勝負はこれからです。限られた時間の中で、どれだけ理想に近づけるか。その挑戦が、今の私の原動力になっています。

リーダーシップに関して、成功するCDO(およびマネジメント層)に必要なことは何ですか?

私がこれまで大切にしてきたのは、「コミュニケーション力」です。

これは社内外を問わず、あらゆる人との関係性を築くうえでの基盤だと考えています。メンバーや役員仲間、社外のパートナーといった関係者としっかり会話を重ねることで、自分の立ち位置を客観的に把握し、自分の考えを伝え、仲間を増やしていくことができます。

面白い取り組みの一つとして、私のカレンダーは夕方以降オープンにしており、若手社員でも自由に声をかけられるようにしています。実際に新入社員が訪ねてきて、生成AIなどの最新技術について話してくれることもあります。彼らはアカデミアとのつながりもあり、私が知らない視点や情報を持っているため、非常に刺激を受けています。

今の時代、情報の変化は非常に速く、経験だけに頼っていては取り残されてしまいます。CIOのラウンドテーブルのような場だけでなく、現場で新しい技術に触れている人たちとの会話が、何よりも価値ある学びになります。

また、ベンダーとの関係も同様です。名前の知られていない企業であっても、革新的な技術を持っていることが多く、むしろ大手の方がレガシーな考えにとらわれていることもあります。だからこそ、先入観を持たずに対話を重ねることが重要だと感じています。

生成AIについては、当社ではまだ取り組みが遅れているという認識があります。ホワイトカラーの生産性向上においては、すでに他社で成果が出ているものを積極的に取り入れていく方針です。独自性を追求するよりも、まずは実績あるものを素早く導入し、変革のスピードを上げていきたいと考えています。

変化の激しい時代だからこそ、立場や年齢に関係なく、オープンに会話し、学び合う姿勢が求められていると実感しています。

ITリーダーを目指す人たちにどのようなアドバイスをしますか?

私がこれまでのキャリアで強く感じているのは、「仲間づくりの大切さ」です。特に印象的なのは、30代・40代の頃に一緒に仕事をしていた仲間たちが、気がつけばCIOやCDOといった立場になって、今も横にいてくれているということです。

「類は友を呼ぶ」と言いますが、志を持って動いている人たちは、若い頃から自然とつながっているものだと感じています。だからこそ、私は今、若い世代がそうした未来の仲間と出会えるような仕掛けを意識的に作っています。

たとえば、年配のメンバーが集まるラウンドテーブルだけでなく、若手向けのラウンドテーブルにも積極的に自社のメンバーを送り出しています。異業種交流や他社との接点を通じて、同世代の仲間をつくる場を提供することが、将来の大きな財産になると信じているからです。

大切なのは、上ばかりを見るのではなく、自分と同じ目線で歩んでいる仲間を大切にすることです。気づけば横にいた──そんな関係性は、偶然ではなく、意志を持って築いていくことで、もっと早く、もっと広くつながっていけるはずです。

だからこそ、若い人たちには「今こそ仲間をつくるチャンスだ」と伝えたいです。未来の変革は、今のつながりから始まるのだと思っています。

今後の展望、中長期的な取り組みについて

少子高齢化が進む中で、製造業を取り巻く雇用環境は年々厳しさを増しています。実際、働き手となる若い世代の多くが、より楽で給与水準の高い業種へと流れていく傾向があり、メーカーにとっては人材確保が大きな課題となっています。

特に、ものづくりができなくなってしまえば、メーカーとしての本質を失ってしまいます。

だからこそ、私は今、サービス業へと移行する前に、もう一度ものづくりの基礎体力を取り戻すべきだと考えています。研究開発の原点に立ち返り、将来「あの時にやっていたから今がある」と言えるような成果を、少しでも多く残していきたいと思っています。

日本は、ものづくりを強みに成長してきた国です

その誇りをもう一度取り戻し、次の世代にしっかりとバトンを渡すためにも、製造業の再強化に本気で取り組む必要があります。

今は厳しい状況かもしれませんが、だからこそ、原点に立ち返り、未来に向けた確かな一歩を踏み出す時だと感じています。

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